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概要:住宅設備機器大手のLIXILで、経営陣の人事を巡って海外機関投資家が反発を強めている。そこにはまだ未熟な日本企業のガバナンスに対する不信がある。
建築材料・住宅設備機器業界最大手の企業、LIXILの経営陣の人事を巡って海外の投資家が反発している。「コーポレートガバナンスの優等生」と自称していた同社で何が起きているのか。
撮影:今村拓馬
「潮田氏は、同日の指名委員会及びその招集段階において、指名委員に対して、瀬戸氏がCEOを辞任する具体的かつ確定的な意思を有しているかのような誤解を与える言動をしたと言わざるを得ない」
2月25日の夕方になってから、LIXILグループが出したプレスリリースにはこんな一文が入っている。プレスリリースでこのように経営陣のゴタゴタの内幕を明らかにするのは珍しい。
どういう意味なのか。
リリースで潮田氏、瀬戸氏とあるのは、LIXILグループの潮田洋一郎会長兼CEO、瀬戸欣哉社長のことだ。2018年10月31日、LIXILグループは11月1日付で取締役会議長だった潮田氏が会長兼CEOに就任し、社長兼CEOだった瀬戸欣哉氏がCEOを退く人事を発表した。
その後、この突然のトップ交代の内幕を一部メディアが暴いた。
人事発表前の10月26日、LIXILグループで指名委員会が開かれた。ここで「潮田氏の言いなりの人」(LIXIL幹部)と言われる指名委員会委員長の山梨広一氏(11月1日付でCOOに就任)が「瀬戸さんから辞任の申し出があった。後任候補は潮田さんと自分だ」と発言、参加者に了承を求めた。
27日、潮田氏は海外出張中だった瀬戸氏に電話をかけ、「自分がやりたいので辞めてほしい」と言った。瀬戸氏が「席を譲れと言われれば譲るが、いま辞めるのは無責任だ」と言い返すと、潮田氏は「これは指名委員会の総意だ」と言って取り合わなかった。
深刻な意見対立があった2人
Getty images /Klaus Vedfelt
瀬戸氏の辞任は誰が言い出したのか。
指名委員会で山梨氏は「瀬戸氏が言い出した」と言ったが、潮田氏は瀬戸氏に対しては「指名委員会の総意だ」と語った。
「つまり潮田氏側が場面に応じて言葉を使い分けて瀬戸氏を解任した」
メディアはそう指摘した。
こうした「二枚舌報道」があったため、LIXILグループの株主で、世界最大の機関投資家である米ブラックロックや英大手機関投資家のマラソンなどが反発。「事の経緯を検証せよ」と同社に申し入れたこともあって、2月25日に検証結果を発表したのである。
検証したのはLIXILグループから委嘱を受けた西村あさひ法律事務所。同事務所は潮田氏と瀬戸氏の間に深刻な意見対立があったことを背景に、瀬戸氏の解任があったことを指摘した上で、解任劇の経緯はメディアが暴いた内容をほぼ追認している。
しかし不思議なことに潮田氏らの行動について、「丁寧さを欠いていたが、虚偽とは言い切れない」とし、トップ交代の取締役会決議に「瑕疵があったと認めるのは困難」と結論づけている。
ガバナンス体制逆手にとった仕組み
LIXILグループは日本企業の中では早い段階で委員会設置会社(現・指名委員会等設置会社)に移行したため、もともと「コーポレートガバナンスの優等生」と自称していた。そのLIXILグループでなぜこのようなことが起きたのか。
撮影:今村拓馬
潮田氏はLIXILグループの前身であるトステム創業家出身だが、トステムはその後、衛生陶器大手のINAXや新日軽、サンウエーブ工業、東洋エクステリアと経営統合してLIXILグループとなった。5社の経営統合を実現した潮田氏は実質的なオーナーとして今日まで君臨している。
しかし、自身の保有株比率は3%前後しかなく、これを上回る株主は他にいる。少数株主でしかないのにオーナーとして振る舞えるのは、経営トップ人事を事実上コントロールできる指名委員会を自身と親しい人物で固め、CEOの生殺与奪を握っているからだ。
瀬戸氏の前任である藤森義明氏は元ゼネラル・エレクトリック上級副社長。潮田氏は“プロ経営者”という触れ込みの藤森氏をCEOに招き、二人三脚で積極的な海外M&Aを展開した。しかしこれが裏目に出て2016年3月期に最終赤字転落が見えると、藤森氏に詰め腹を切らせた。
後任に据えたのが住友商事出身で、工具のネット販売会社MonotaRO(モノタロウ)を創業し東証1部に上場させた瀬戸氏。しかし経営路線の違いが鮮明になったため解任した。
海外の株主が疑惑の目を向けているのは、この一見、しっかりしているガバナンス体制を逆手に取って、企業を意のままに操っている仕組みなのである。
なお未熟な日本の企業統治
少数株主である創業家が企業を牛耳っているケースは日本においてまだ少なくない。
撮影:今村拓馬
今回、西村あさひが調査の結果、「虚偽とは言えない」とまとめたのだから、問題はないと見る向きもあろう。
しかし、2月25日のプレスリリースにはからくりがある。発表したのは西村あさひではなくLIXILグループ。すなわち、検証結果そのものではなく、潮田氏の意向を踏まえてLIXILグループがまとめた要約版なのだ。だから厳密に言えば第三者による検証結果ではない。
「通常、第三者の検証結果は、その第三者名で発表される。しかし『問題はあるがセーフ』という論理的に苦しい内容に、西村あさひは負い目があったから、自分たちの名前での発表を避けたのだろう」(ガバナンスに詳しい放送関係者)
日本企業にコーポレートガバナンス強化を求める「伊藤レポート」がまとまったのは2014年。日本企業は長らく経営の執行と監督が渾然一体となって来たが、同レポートは株主の利益を重視した経営を促進するため、社外取締役を少なくとも2人以上置くことや、グローバル展開をする企業では取締役の3分の1以上を社外取締役にすることなどを推奨した。
これを契機に日本企業の企業統治は大幅に改善したと言われるが、なお未熟な部分がある。その一つがLIXILグループのように創業家出身の少数株主が企業を牛耳っているケースが少なくないことだ。
今回の解任劇を問題視しているブラックロックやマラソンは、いわゆる「物言う株主」とは一線を画し、企業との対話などを重視する機関投資家。通常は「物言わぬ」はずの株主が異例の行動を見せるのは、「LIXIL騒動」をきっかけとして、なお未熟な日本のコーポレートガバナンスをあぶり出し、正そうという動きなのだろう。
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悠木亮平(ゆうき・りょうへい):ジャーナリスト。新聞社や出版社で政官財の広範囲にまたがって長く経済分野を取材している。
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